お寺に入る前の職場の機関紙に文章を投稿させていただいています。
その34、最終回です。
『仏教が目指す「心のあり方」とは』です。
長期間、連載をさせていただいたことで、
私自身とても勉強になりました。
感謝しております。
『私は高校生の時、
5,000m、駅伝などの長距離を走る陸上部に入っていました。
夏休みのその日は、
クラスメートは皆、実力テストで出校日だったのですが、
私たち陸上部だけは地区大会があって学校はお休み。
その代わり試合後にその実力テストを自宅に持ち帰って、
自分で時間を計りながらテストを受けることになっていました。
その日は5,000mの競技に出場し、
かなりのエネルギーを消耗して身体が疲れ切ってしまいました。
家に帰ってご飯を食べて、
さあテストを受けようかという時も
まだ身体は疲れていたのですが、
なんだか絶妙な心地よさを感じていました。
さらに身体が疲れているからなのか、
頭や心もいつものように働いていなくて、
ただ淡々とするべきことをするだけの心境です。
周囲の音が無くなって静かになり、
不思議な表現ですが、
周りの空気がキラキラと輝いているように感じます。
そのような状況でテスト開始。
解き始めると、
問題がスラスラとどんどん解けます。
思わず時間を忘れるほどです。
いつのもテストなら、
重~い気分で、できるかどうかの不安、
やりたくないという気持ちなどを抱えながらイヤイヤ取り組むのですが、
そのような余計なものが一切ない。
ただ問題を解くだけです。
普段の試験では学年で真ん中より下の順位だったのが、
そのテストは、
何と数学が学年2位!
その他の教科もとても良い結果となったことがあります。
人生、後にも先にもこの1回きりですが、
個人的に「奇跡の時」として心に刻んでいます。
実は、私たち人間には、
自らもつ能力を最も発揮し、
最高のパフォーマンスを実現する状態があります。
スポーツの試合などでも、
通常は、負けたくない、焦り、不安、緊張、
相手に対する恐怖、「よし勝てる」と思った瞬間に足をすくわれたりなど、
さまざまな思いを抱えながら戦っているのですが、
スポーツ心理学で「ゾーン」といわれる特別な状態になると、
そのような余計なことは考えないすっきりとした状態で、
最大限の力を発揮できることが注目されています。
私たちが、大好きなことなどに夢中になっている時が、
そのパフォーマンスの高い状態に最も近いと思います。
熱中している。時間を忘れる。ストレスが無い。
不安や焦りや欲など余計なことは考えない、感じない。
夢中、無心。思考、思惑が働かない。無我。
皆さんにとって、自分自身が驚くほど能力が発揮できた時はどのような状態でしたか?
普段、私たちには、
思考や思惑、思い、感情、心などがあることが当たり前ですが、
それらの「思い」が存在し働くことが、
実は、自ら持つ能力を最大限発揮することに対する「妨げ」になってしまっています。
そもそもストレスや苦しみは、
その「思う」ことから発生し、
緊張、不安、焦り、欲、やりたくない、
そう思えば思うほどストレスや苦しみが増大していきます。
「落ち着こう」「不安にならないように」とすればするほど、
心で心をコントロールすることが難しく、
かえってストレスが増大する悪循環に陥ります。
思いや心の過剰活性が常態化してパフォーマンスが著しく損なわれている状態が、
まさに「心の病気」ということになります。
心理療法で考え方を変えようという試みがありますが、
過剰活性しているうちはなかなか効果が発揮しにくいかと思います。
仏教が目指す「心のあり方」とは、
苦しみやストレスのもととなっている「思い」や心の働きから解き放たれること。
つまり、思いや心の働きを沈静化していくことによって、
自らの能力を最大限発揮できる状態を目指すことです。
常人には人生で稀にしか「ゾーン」を経験できませんが、
究極的な「いつでもゾーン」こそ、まさしく「悟りの境地」です。
今回で長らく続けさせていただきましたこの連載は最終回となります。仏教やお寺のあり方など興味を持っていただけるご縁となれば幸いです。大変、お世話になり本当にありがとうございました。』
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